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東大体操部部員日記

東大体操部の部員による日記です。

トレ体探検記

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「探検入ります、お願いします」

 トレ体の入り口で立ち止まって挨拶をする。
 体育館の中に歩みを進め、ふと右手を見るとそこにはひっそりと、でも賑やかなホワイトボードが立っている。
 部員の名前が書かれたマグネットが並び、横にはその人の愛称がずらっと(一部の人はちょこっと)記されている。こちらは、今年の新歓期に始まった和気藹々プロジェクト、通称YKAIAIP、の一環である。残念ながら、女子部員のところには補強メニューや基礎練習メニューの紙がかぶさっており、満足に読める状態ではない。以前は、大会に向けた目標を書いたり通しの本数を記録したりもしたが、更新があまりなされなかったり、そう頻繁にチェックする訳でもなかったりして、使い方が迷走している。早くストップウォッチストッカー以外の有用性を見出したいものだ。
 その奥には、水色の池が広がっている。否、水色のビニールシートである。下には短マット7枚、円馬、跳び箱、跳馬が隠れている。短マットは、白いものや緑色のもの、少し古いものから新品同然のものまで多種多様に取り揃えているが、平行棒の下にひく2枚(青いガムテープで修復されている)以外は、特に区別もなく使っているようだ。カット後は、部誌を書いたりダウンをしたり動画をチェックしたりする部員たちの溜まり場となる。
 さらに歩みを進めていこう。
 跳馬脇に置かれたミニパラの横を抜けると、商店街の寂れた骨董屋を彷彿とさせるような雑多なスペースが現れる。器具でいうと、ロイター3台に鉄棒・段違い平行棒の支柱とバー、低鉄・鉄棒・だんち・ゆかのワイヤーといったところだろうか。ロイターは、3台のうち1台は新しいもので、主に跳馬で使われる。ハード↔ソフトのバネの取り外しも体操部員であれば、手慣れたものだ。
 それ以外に目につくものといえば、救急箱や扇風機、プラカード、ゆかでシャーっとやるやつ(水色のロールケーキみたいなやつ、未だに存在意義がよくわからない)、部誌などだろうか。もう雑多すぎて描写する気にもなれない。棚には、『テーピングメソッド』や『ストレッチ』などの役立ちそうなものから、『スーパー劇的内定塾』といった関係なくないか?という題名のものまで十冊強の本が並んでいる。(後者についてはどんな内容だろうと手に取ったら、なんとDVD版であった。きっと引退された方が残していったものなのだろう。いつか就活をする時になったらお世話になるだろうか)
 あぁ大事なものが一つあった。昨年引退された多映さんが作ってくださった超絶イカしたカレンダーである。下部は一般的なカレンダーとなっており、上部には去年のそれぞれの月の大きなイベント時に撮られた写真がかっこよく並んでいる。セットや試合の日程など、当面の予定はこちらに記入されているので、何かやりたい器具のあるOB・ OG・ゲストの方々はこちらを参照されると良いかもしれない。
 雑多な物置(?)を乗り越えると、床板が強烈な存在感を放っている。暖かくなってきたのと、前回の大掃除でバネを補修したおかげもあってか、最近はバネがボロボロ落ちることはなくなった。床板について言うことはそれくらいである。
 次に現れるのは、ロングマットの林とセノッグの丘、ボックスの山、そして倒立バーの池である。
 ちなみにくすんだ色(これを何色と表現するかは議論の分かれるところである)のセノッグは28枚、カラフルな方は12枚(うち青が8枚、緑が4枚)、白いやつが14枚である。白いセノッグに関しては、「先頭」「優」「良」「可」といった特別な運命を担ったものがあるので注意されたい。ボックスは吊り輪や鉄棒に登る為に使われたり、ミニトラに飛び降りる為に使われたり、ビデオを撮るスマホを置くのに使われたりと、多様な用途に使われ、大活躍である。
 さらに進むと、足元には力なく横たわった、ポニョと呼ばれるマットが見えてくる。なんとも形容しがたい、まさに「ポニョ」といった風情である。力強さこそ感じられないものの、その柔らかさと安心感で今まで何人もの体操部員の心と体を救ってきた。
 低台は長いのと短いのが1本ずつ、そして1枚の緑のシートが壁際に配置されている。さらにカーペット、床用のロングマットが並び、それらを守るようにピタリマットと白セノッグ4枚が覆いかぶさっている。このうち長い低台とカーペットは最近このトレ体にやってきた新入りである。使用頻度はいうまでもなく高く、随分と早いうちにこの体育館に馴染んでいた訳だが、トレ体の先輩であるピタリマットは、自分が守ってあげなければ、と使命感を感じているのだろうか。
 壁にあるトレーニング器具には下田主将お手製のロージェがぶら下がっている。上手くなりたいという気持ちが現れた渾身の一作である。
 そのままミニトラや円馬を通り抜けると、奥に突出したスペースが現れる。エバーマット置き場である。こちらにはエバーマットが7枚積み重なっている。「立たない」の文字や×の印が目立つものばかりだが、エバーマットはあるに越したことはない。おかげでいくつもの器具を並行して出すことができるのだ。ちなみに一番上に乗っている二枚のエバは通称ヘニョである。先ほど登場した「ポニョ」とは別物であるが、混乱することはない。ヘニョっていう感じのやつがヘニョで、ポニョっていう感じのやつがポニョである。これで見分けは完璧だろう。
 その横にはデカトラがどーんと立っている。こちらは、車輪の扱いが難しい。
 さてトレ体の(入り口から見て)右半分を探検し終わった訳であるが、これでやっと半分なのだろうか、とうんざりしている方もいるかもしれない。しかし、その心配はご無用である。なぜなら、トレ体の(入り口から見て)左半分は、屈強なBWという方々の敷地であり、そちらに体操部が足を踏み入れることはほとんどないからである。(ゆかに並んでいる時に時々お邪魔しちゃいます、すみません)というわけで、特に何もないトレ体の中央を、入り口側に向かって、帰っていくこととする。
 行きに何時間もかけて行った道を数秒でスタスタ帰ってくる。
 終点には、鉄の敷居(?)みたいなのが並んでいる。部員が思い思いに荷物を置く場所である。これ、本来はトレーニング器具なのか?よくわからないけれど、荷物置きに便利なので、今後もそのように使われるだろう。これからはセット替え後に水分補給をする部員がたくさん観測できると思われる。
 最後に待ち構えているのが、平行棒とその中に器用に収納されたエバーマット達である。こちらは、奥のエバーマットと違い、豆腐と呼ばれるものから緑のエバまでなかなか質の良いものが揃っている。ここにエバーマットをしまうときは、奥の水銀灯のスイッチに気をつけなければならない。万が一誤ってスイッチを押してしまうと、トレ体の電気が消えてしまう。さらに再灯するまで時間がかかるので、トレ体中の非難の視線を浴びることとなる。
 ふう、これでトレ体一周。なかなか長い旅であった。
 
 今、新体育館の計画が順調に(なのかどうかはよく知らないのだが)進んでいる。このトレ体も近いうちに取り壊されることになるだろう。歴史のつまったこの体育館の、今この瞬間の姿を、探検記として留めておこう。いつかこのトレ体を知らない世代となるまだ見ぬ後輩達が、生き生きとこの体育館の様子を、そしてそこで活動してきた先輩達の姿を心に描けたら良い。

 そんな感慨に似た思いを抱きながら、体育館を一歩出る。
 180度振り向いて気をつけ。

「これで探検を終わります。ありがとうございました。」

written by 二年 藤波真由